東京高等裁判所 昭和47年(ネ)901号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一 控訴人(債権者)が本件特許権の共有権者であり、その特許請求の範囲の項の記載が控訴人主張のとおりであること、被控訴人(債務者)が(イ)号工法を実施しようとしてその宣伝をしていること、本件特許発明の工法と(イ)号工法との各構成を比較すると、いずれも隧道管押抜工法であつて、隧道管(コンクリートヒューム管)を直列に推進する工具の推進能力限界の長さごとに隧道管の後端に案内管と推進工具(ジャッキ)とを付加装設し、直列の隧道管を限界推進単位長さごとに分割すること、推進単位ごとに装接した推進工具(ジャッキ)を前方に位置するものから順次操作して、推進単位ごとの隧道管を所定距離直進させること、以上の各要件において一致し、所定距離直進後、本件特許発明の工法においては、推進工具を前方に位置するものより順次取り除くとともに、各推進単位ごとの隧道管を順次押し合わせて接着し、全管を直列に接続するのに対し、(イ)号工法にあつては、各ジャッキを撤去して案内管内面にセダメントを巻き立て、隧道管内面と同一平面とすることによつて、隧道管を連接し、全管を直列に接続するものである点において相違しているものであること、以上の点はすべて当事者間に争いがない。
二 そこで、(イ)号工法が本件特許発明の技術的範囲に属するか否かについて検討する。
控訴人は、まず、前項記載の本件特許発明の工法と(イ)号工法との構成上の一致点が本件特許発明の主要部であつて、その余の相違点は要重度の低い要件にすぎないことを前提として、(イ)号工法は本件特許発明の工法の迂回方法または不完全利用の工法にすぎないと主張するが、いずれも理由がない。これを詳説すれば、次のとおりである。
控訴人が本件特許発明の主要部と主張する前記構成要件が、その特許出願前公知の技術であつたことについては、当裁判所の判断も原判決中のこの点の判断と同一であるから、……ここに引用する。したがつて、本件特許発明において、(イ)号工法と一致する前記構成要件をもつて主要部とみることは正当でないといわなければならない。
そして、本件特許発明と(イ)号工法との前記相違点についてみると、いずれにあつても、隧道管を所定距離直進したのち、隧道管全部を接着させて直列に接続する工程であるが、本件特許発明の工法においては、推進工具を前方より順次に取り除くとともに各推進単位ごとの隧道管を順次押し合わせて接着し、全管を直列に接続するのに対し、(イ)号工法にあつては、各ジャッキを撤去して案内管内面にセグメントを巻き立て、隧道管内面と同一平面にすることによつて隧道管を連接し、全管を直列に接続するというのであるから、両者間に施行技術上多少の繁簡の差はあるであろうが、(イ)号工法の右工程も、その全管接続の目的を達するため有意義の技術手段というべく、本件特許発明の工法に対して本来必要のない余分の工程を付加変更して、技術的に無用の迂回をしたなどといえないことは、いうまでもないところである。
また、いわゆる不完全利用なる概念も、それ自体明確なものではないばかりでなく、本件特許発明と(イ)号工法における前記相違点の各工程を比較対照してみても、いずれも全管を直列に接続するためのそれぞれ別個の技術手段とみるべきものであつて、(イ)号工法の工程が本件特許発明のそれに比し、控訴人の主張するように、劣悪なものと断定すべき資料はなく、まして、(イ)号工法が本件特許発明と同一の解決原理に基づきながらこれとの牴触を避けようとして、技術的に甚だ劣る手段を置換採用したものと認めるべき資料もない。したがつて、控訴人の不完全利用の主張も理由のないものといわなければならない。
以上のとおり、控訴人の主張はいずれも理由がなく、前記相違点に照らすと、(イ)号工法は、本件特許発明の構成要件のうち、隧道管を所定距離直進したのち、推進工具を前方に位置するものから順次取り除くとともに、各推進単位ごとの隧道管を順次押し合わせて接着するとの要件を具えていないことが明らかであるから、(イ)号工法は本件特許発明の技術的範囲に属さないといわざるをえない。
三 以上のとおりであるから、控訴人の本件仮処分申請は被保全権利についての疎明を欠き、保証をもつて右に代えることも相当でないから、結局、理由がないものというべく、これと同趣旨に出て、右申請を却下すべきものとした原判決は結局正当である。
よつて、本件控訴を理由なしとして棄却する。
(青木義人 石沢健 宇野栄一郎)